エッセイ

雨の日の1ページ

雨の日の1ページ

 最近、雨の日が多い。止んでも、どんよりとした空が続く。そんな外の色は、私はあまり得意ではない。明るい太陽が恋しい。
 だが、雨でエレガンスを楽しむことも時にはある。

 部屋の中でピアノを奏でている場面だ。 窓ガラスの外は、流れるような雨。そんな音をかき消すように、家の中にはポロネーズが流れる。ピアノの横には、小さなテーブルがあり、その上にはレモンティーが。

 これは、私の記憶の中に残っている漫画の1シーンでもある。 小学生の頃に読んだ漫画だ。 だが、長い時を経ても強く印象に残っているのだ。 といっても、ストーリーはもう忘れてしまった。 とにかく、このたった1ページに託された絵が、私の心を見事にとらえていたのだ。

 当時、そんな他愛ないシーンに憧れ、真似てみたりしていた。
 しとしとと雨の降る日、フロアスタンドの明かりをつける。 オレンジ色の光に照らされながら、ピアノを弾く。 そして、横のテーブルには、ちょっとお洒落なカップに入ったレモンティー。 

 ピアノとレモンティー、そして雨。 何気ないシチュエーションだ。 だが、外の淋しさと部屋の暖かさ、この対比に風情があるのかもしれない。 それがやけに憧れる景色だったのだ。
 そして、今に至るまでも時々その1ページを思い出す。 

 残念ながら、現在の家にピアノはない。 ずっと弾いていなかったこともあり、小さい部屋への引越しを機に譲ってしまったのだ。 だが、父親のキーボードなら、まだ家にある。

 そうだ、久しぶりにキーボードでも弾いてみようか。
今日はレモンティーというより、ミルクティーの気分だが…

 

Photo by Photo AC