エッセイ

ヨーロッパの街並みが浮かぶバロック          ~メヌエットとバディネリ~

germany

フルートと弦楽器で奏でる音が好きだ。
そんな管弦楽のバロックが聞こえてくると、ヨーロッパの古い町並みが浮かぶ。

J.S.バッハ 管弦楽組曲第2番ロ短調

バッハを聴くようになったきっかけは、管弦楽組曲第2番ロ短調。
中でもメヌエットとバディネリが私のお気に入りである。

最初に耳にしたのは中学時代、音楽部に所属していた時のことだ。
発表会で選曲されたのが、この組曲だったのである。
それこそ拙い演奏ではあったが、その旋律の魅力に惹き込まれていったのだ。

「メヌエット」と「バディネリ」

街の裏通り、石畳の細い道。両側には、ずっしりと重みを感じる建物。
そこには、ヨハン・セバスチャン・バッハの面影がある。
そして、彼が生きた時代に流行ったコーヒーハウスもある。
そんな風景が、いつも頭の中で蘇るように浮かんでくるのだ。
そして、私の中で物語が展開されていく。

=ある日のアイゼナハの一角=

午後の石畳、朱色のスカーフをまとった綺麗な老婦人が歩いていた。

手に持っている籠からは、リンゴと野菜が色を覗かせている。

市場からの帰り道だ。

「フィリップ! フィリップ!!」

老婦人が叫んだ。

前方には、背の高い若い男が歩いている。

男は、自分の名前が聞こえると後ろを振り向いた。

「あぁー、エルザおばさん!」

「お帰り!」

都会に住んでいる甥のフィリップが、故郷に帰ってきたのだ。

「どう? 元気だった?」

エルザが微笑みながら尋ねる。

「あぁ、おばさんも元気そうだね。安心したよ。」

「えぇ、そうよ。悲しいことがあったからって、いつまでも落ち込んでたら、やっていけないわ。」

フィリップは、優しい笑みを浮かべながら頷いた。

「それにね、マーリアがまた新しい命を授かったの! 神に見放されてなんか、なかったのよ。」

「うん、そうだね! 僕も嬉しいよ。」

フィリップの義理姉に、5番目の子どもが出来たことで二人は喜んだ。

「あ、おばさん、ところで兄さんは? 家にいるかな」

「あぁ、セバスなら、コーヒーハウスへ行ってるわ。演奏会のことで、お話しだそうよ。」

「へぇ~、またコーヒーハウスか。」

「あなたも、うちでコーヒーを飲んでいかない? 話したいことが、たくさんたまっているのよ。
美味しいコーヒーでも飲みながら、一緒にお話ししましょ!」

 
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楽曲から空想が広がる。

自分の世界観で、勝手に想像してみるのも面白いものだ。

近年は、昔ながらの喫茶店をあまり見かけなくなった。

ちょっと寂しい。

茶系に囲まれた落ち着いた店内、ドアを開けた瞬間に感じるコーヒーの薫る空間。

そこに流れるクラシック音楽。 心を和らげてくれる憩いの場所だ。

久しぶりに行きたくなってきた。そんな喫茶店、コーヒーハウスへ。

 

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